2013年6月17日月曜日

波乱の日本株式市場 浮かび上がる3つの疑問

日本株の急落で始まった市場の動揺は新興国に波及し、世界的にリスク資産離れの動きが広がっているという。米連邦準備理事会(FRB )の量的緩和第3弾(QE3)が早期に縮小に転じるとの観測をきっかけに、ヘッジファンド が世界で株式の持ち高を減らしているとの見方だ。
 確かにそうした動きはあるのだろうが、そうだとしても腑(ふ)に落ちない点もある。例えば、FRBのお膝元である米国ではなぜ株価が底堅く、日本の株式市場はこれほど振り回されるのか。乱高下を続ける日本株市場を見ながら感じる3つの疑問を考えてみた。

〈疑問1〉ヘッジファンドは総売りに転じたのか

 昨年11月からの海外投資家による日本株の買越額は10兆円近くに達し、その過半がヘッジファンドによる買いとみられている。もしもヘッジファンドが総売りに転じ、仮に5兆円近い売りが出れば、日経平均株価 は4ケタの世界に逆戻りしかねない。しかし、投資主体別の売買動向を見ると海外投資家は6月第1週に1600億円の買い越しだった。データを見る限り、ヘッジファンドが一斉に売りに転じたとは思えない。

■先物売りで崩れた相場

 「外国人投資家がリスクオフに転じたとの見方は誤り。中長期の投資家は今、売りも買いもせずに様子見だし、(相場のトレンドをつくる)グローバルマクロのヘッジファンドもポジションに変化は見られない」。BNPパリバ証券の丸山俊チーフ・ストラテジストはそう話す。

 では誰が日本株を売っているのか。丸山氏が挙げるのはCTA (商品投資顧問)。主に先物やオプションを投資対象として、景気指標や市場統計などを手掛かりにアルゴリズム取引 (コンピューターのプログラムによる売買)で利益を上げようとするヘッジファンドだ。日経平均が1万6000円目前に駆け上がった5月23日前場までの急騰相場をリードしたのは、このCTAだったといわれる。

ところがその後の急落で、上げ相場に賭けていたCTAは大きな損失を被り、ポジション縮小のために機械的な先物売りを続けざるを得なかった。その先物売りが裁定取引 の解消に伴う現物株の売りや、信用買いをしていた個人投資家の投げ売りを巻き込んで、現物株市場の下げを増幅した。

ちなみに三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里チーフストラテジストも直近のリポートで「CTAの積み上げたポジションの解消が価格変動を大きくした」と指摘している。


 丸山氏は「CTAの株式売買は機械的なトレーディング。付いた値段にはほとんど意味がない」と主張する。1万6000円目前まで上げた株価と同じように、CTAの先物売りで付いた今の株価にもファンダメンタルズの裏付けはないという。「相場が落ち着きを取り戻し、中長期の投資家が動き始めたときに相場は新たなスタートを切る」というのが丸山氏の見方。ただし、CTAの売りが止まるまで下げ相場は続く可能性は強い。グローバルマクロなど他のヘッジファンドが持ち高をいつまで維持するかはわからない。

〈疑問2〉米国株はなぜ高値圏を維持しているのか

 QE3の早期縮小観測が世界的なリスク資産離れの理由なら、最も敏感に反応するのは米国株のはず。ところがダウ平均は今も1万5000ドル台で推移しているし、市場の不安心理を映すというVIX指数(S&P500オプションのボラティリティー 指数)もじわじわ上昇傾向とはいえ、節目の20は下回っている。

■懐の浅い日本市場は新興国並み?

 野村証券の村山誠シニアストラテジストは「QE3が出口に向かうのは、米経済の回復の確度がそれだけ高まっているからで、決して悪いことではない」と指摘する。量的緩和であふれたマネーは投資先のジャンク債や新興国の株式・通貨などから引き揚げられつつあるが、その一部は「相対的にファンダメンタルズがしっかりしている米国株に向かっている」といい、それが米国株の底堅さにつながっているとみる。実際にQE3の転換となれば米国市場も動揺するだろうが、景気の回復度合いを考えれば「そこは買い場になる」と強気だ。

 丸山氏はQE3の早期縮小観測で株価が大きく下落した国には共通の特徴があるという。「(CTAの売りで急落した)インドやタイ、インドネシア、フィリピンなどはいずれも国内に中長期の投資家が育っていない国。その意味では日本の株式市場も新興国並みだ」と手厳しい。投資家層に厚みがあって企業の自社株買い も活発な米国市場と異なり、懐が浅い日本や新興国の株式市場は海外投資家の動向に大きく振り回されてしまう。

〈疑問3〉異次元緩和の効果は消えたのか

 株価も円相場も4月4日に日銀が打ち出した異次元緩和の前の水準にほぼ逆戻りし、長期金利 はそれ以前の水準より高くなっている。株安と円高はある程度、一部ヘッジファンドの持ち高の巻き戻しという短期の需給で説明できるとしても、長期金利については「日銀は金利上昇を制御できないのでは」との見方が出ている。前週の金融政策決定会合 でも、市場を静観する日銀の姿勢が際立った。米国の長期金利に引きずられ、今後、日本の長期金利はさらに上昇していくのだろうか。

■「長期金利は上がらない」

 武者リサーチの武者陵司代表は「債券相場が不安定なのは行き過ぎた金利低下の是正局面だから。今の長期金利の水準は決して高くはないし、今後も大きく上がることはない」とみる。

 低金利の理由は(1)国内需要の弱さ(2)日銀の量的緩和の継続(3)企業の貯蓄超過の3つ。このうち、(1)については劇的な景気の回復は望めず、(3)については資本と雇用の余剰の解消にはかなりの時間がかかるのは必至。だからこそ(2)の量的緩和という政策支援が必要だと主張する。

 日銀の異次元緩和は4月に始まったばかり。デフレ 脱却の期待への働き掛けはともかく、実体経済に政策効果が及ぶにはそれなりの時間が必要になる、というわけだ。武者氏は「異次元緩和への批判にしてもQE3の出口議論にしても、ヘッジファンドのポジション調整の格好の口実に使われている面が強い」と、行き過ぎた悲観論には批判的だ。

 今回の波乱相場が、改めて日本の株式市場のもろさを浮き彫りにしたのは事実。株式相場は今後もFRBの出口論議に一喜一憂したり、ヘッジファンドの影におびえたりしながら、時間をかけて落ち着きどころを探る展開になりそうだ。

 ただ、長い目で見れば株価の方向性を決めるのは、あくまでファンダメンタルズ。政府と日銀が最優先の政策目標としてデフレ脱却に取り組み続け、企業収益が着実に回復していくならば、今から弱気になる必要はないはずだ。

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